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「じゃぁな」

そう言って君は笑った。



終電間近のホームは人も疎らで、虫の音だけが、リー、リーと啼いていた。

電車に乗り込み振り返ると、君は微笑んでいた。

手を伸ばせば触れる距離なのに、その笑顔が、悲しくて、愛しくて、僕は手を伸ばす事が出来なかった。

このままどこにも帰らず、ずっと二人だけで居られたらいいのに。

そうすれば、こんな不安も消える。

「ねぇ、亮・・・・・・」

勇気を出して、言葉を紡ぐ。けれど無常にも、ドアは閉まり・・・・・・二人の距離はまた広がる。

こんなに近いのに、僕と君の間には決して縮まらない距離がある。

見えない距離。

丁度このガラスのように。

僕は手を伸ばし窓ガラスに触れた。丁度そこは亮の頬がある辺り。

撫でるように手を動かすと、亮も手を這わせた。

ぴったりと重なるように合った手から愛しさが込み上げてくる。

君はほんの少しだけ寂しそうに目を伏せて、笑った。

電車が動き出し、ゆっくりと君を遠ざける。

「またな、薫」

笑ったまま君はずっと僕を見ていた。

「またね、亮」

僕も笑って、君がいたホームをいつまでも見ていた。

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