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「・・・っ」

大きく見開いた目は見慣れた天井を映した。
それでも先ほどまでの恐怖に、辺りを見回し、漸く現実世界に帰ったのだと判るとほっと溜め息をついた。

部屋には秒針だけが規則正しく時を刻む以外物音一つない。
ベッドサイドの時計は三時を指していた。

はあ。と大きく息を零し、髪をかき上げると、額は汗で濡れていて、頭皮にまで流れ込み髪の毛までもがしっとりと濡れていた。



悪夢を見た。
子供の頃から見続けている夢。
何か得体の知れないものに追われて、ただ逃げ惑うだけの夢。
最後には縋った光さえも瞬く間に粒となり消えていく、不思議な夢。

具体性は全くないけれど、恐怖に目が覚めてしまうのはいつものことだった。


ごろりと横になるけれど、なかなか眠気はやってこない。
むしろ目が冴えてしまった。

「ああ、もう・・・眠れねえ・・・・・・」

ふと視線に携帯電話が映った。
何気なく手に取りメモリを開けば一番に登録してあるのは、恋人の名前。

「起きてる、かな」

暫しの逡巡の後、通話ボタンをおせば、容易くコール音に繋がった。


いつもなら、独りでやり過ごしていたけど、今は、今夜は違う。
きっとビックリするか、嬉しがる声で電話に出るに違いない。

悪夢も、たまにはいいかもしれない。


「あ、薫?起きてた?・・・・・・なんて声だしてんだよ」


こんなふうに、ちょっと彼を驚かす事ができるのならば。

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「もう、会わないから」

去り際に言ったハセヲの言葉の意味が判らなくて、僕は彼の次の言葉を待つしかなかった。

会わない。ってどういうこと?
会えない。んじゃなくて、会わないと彼は言った。

どうして?
どうして?

僕、何かした?
ハセヲが嫌がること、した?
嫌な事言った?

判らないよ。
だって、さっきまでは笑ってたのに。

「泣いても駄目だからな」

ぽたぽたと僕の頬を伝うのは、涙。
見透かしたように、背を向けたハセヲはそ吐き捨てた。
冷たい、まるで心の中まで突き刺す氷のような冷めた声色に、言いたいことがあるはずなのに、僕の唇は動く事はなくて。
空気は、声門を通り抜けることが出来ずに、ただの空気のまま唇から漏れるばかりで。

「じゃあな」

踏み出した足は軽やかで、ハセヲは少しずつ遠ざかっていく。
一度も振り返ることもなく。
少しも歩く速さも落とすことなく。
ただ、僕と彼の距離は離れていく。

ねぇ。
どうして駄目なの?
どうして何にも言ってくれないの?


じゃあな。
それはいつだってハセヲが去り際に言った台詞。
何も変わらなかった、また明日。と約束した昨日も。
もう会わないと言った今日も。
同じ言葉だったのに。

「ハセヲ・・・・・・判らないよ、ねぇ・・・・・・・ハセヲ」

闇に消えたハセヲを想いながらも、僕はまだ涙を流していた。

解禁!M2D


シラ「ついに出たね~M2D!!!僕徹夜して並んじゃったよ(^^)」

アト「わぁ!じゃあ今着けてるんですか~?」

シラ「もっちろん!やっぱり世界観が全然違って見えるよ~」

ハセ「まぁ・・・確かにより壮大に感じるな」

シラ「あれっ、ハセヲも?!あれだけ高いってぼやいてたのに、やっぱりハセヲも買ったんだ~(^O^)」

ハセ「ま。新作は一通り試さねぇとな」

シラ「だよね~。でも実際言うほど高くないでしょ」

ハセ「まぁな。とりあえずシリアルナンバー入りのを買った」

アト「シリアルナンバー?!」

シラ「え!あれって、限定モノで、しかも一般には出回らないって聞いたけど・・・」

ハセ「ちょっと、な」

シラ「うわぁ!!ハセヲすごいじゃんW」

ハセ「シラバスはどんなの買ったんだ?」

シラ「僕は全種類揃えてみたよ。その日の気分によって色を変えようと思って。あ、ちなみに今日は緑だよ」

ハセ「お前、ほんと凝り性だよな・・・」

シラ「そういうハセヲだって、レアハンターじゃんW」

ハセ「たまたまだっつの」

シラ「そういえば、ガスパーは特注するらしいよ。頭のサイズが合わないみたい」

ハセ「ダイエットすりゃいいのに」

シラ「だよね~。でもやっぱり安物より断然いいよね!あんなの(旧型)つけてる人の気が知れないよ」

ハセ「だよな。俺もあれつけてると頭痛くなるんだ」

二人、笑いながらM2Dについて語っている。

 

アト「(榊さん・・・・・・私は初めて仲間に殺意を覚えました)」








私の友達にも物凄いお金持ちがいて、シラバスのように同じ種類の靴を色違いで何足も揃える人です。
そんな時、ついついアトリのような気持ちになってしまう私を誰が責められようか(笑)

「ねぇ、ハセヲ・・・今日ね、ボク一人で買い物に行ったんだ」

マク・アヌの噴水は夕陽を浴びてきらきらと光の粒を撒き散らしていた。
一見すればとても綺麗な様相だったけれど、その輝きは彼の前では引き立て役にしかなり得なかった。
彼、エンデュランスは噴水の光を背景にうっとりと微笑んでいた。
その誰もが見惚れる微笑みだったが、彼がその眸に映すのは、笑顔を向けるのは世界にたった一人だけ。

「きっとそのうち、ハセヲにも会いに行けるようになるかな・・・・・・?」

眸を潤ませながら、優雅に薔薇の花弁を舞い散らせるその様に周囲も息を呑んでいた。
そのPC達の表情は青ざめていたり、目を合わせないようにしていたりと様々だった。

「ボク、ボク・・・・・・ハセヲの為ならなんだってできるよ」

それもそのはずで、先程からエンデュランスは悶えるように体をくねらせながら目の前に置かれたハセにゃん人形を頬を染めて見つめていたのだ。

「エ、エンデュランス?何・・・やってんだ・・・?」

「あ、ハセヲ・・・・・・」

人込みの中から姿を現したハセヲは、エンデュランスのその様を見た瞬間、動きが固まった。

「どうしたの、ハ・セ・ヲ?」

変な節をつけながらエンデュランスの人差し指がハセヲの唇に押し当てられ、その衝撃にエンデュランスを除く全ての動きが止まった。

「あれ・・・・・・・みんなどうしちゃったのかな・・・・・・?まぁ、いいか・・・ねぇ、ハセヲ早く行こう・・・・・・」

風景までもが灰色に塗り替えられていく様を見ながら、エンデュランスは動かないままのハセヲの腕を引きながら人気の無い場所まで移動するのだった。
「・・・・・・不条理だ」

コントローラーを握り締めたまま、亮は呟いた。
振り向いた薫の目に映ったモニターには真っ黒のバックグラウンドにエンドロールが流れ始めていた。
何処か納得のいかない表情の亮は投げ捨てる様にコントローラーを放り投げた。

「どうしたの?」

「いや、なんかさ・・・・・・」

薫に向き直った亮は少し口篭った。

「・・・このゲームの最後が、酷いなと思って、さ」

「そうなの?話題作みたいだけど・・・・・・良くなかったの?」

「そういう事じゃなくて・・・・・・ラストで主人公が死ぬんだよ。それまでも散々酷い目に合ってきて、でも頑張ってきて、でもその結末がこれかよ、って思ったら・・・・・・何か許せなくて・・・」

拗ねた口ぶりの亮の背後では、物悲しいエンディングが延々と流れていてた。
少し考えて、薫は
「でも、物語の終わった後はどうなってるかは判らないよ・・・・・・終わった後に、ボク達のように違う方向を歩んだかもしれない」
「・・・でもその主人公は、俺達とは違って、あの世界にしか存在しないんだ。どこまで行ってもその終わり方しかできないんだ、その先は紡がれてないんだ・・・・・・そんなの・・・」


「ないんだったら、亮が紡いであげればいいんじゃないかな・・・・・・」
「俺が・・・・・・?」
「亮だったら、きっと良い結末を紡げるよ。ボクも亮がいなければきっと、未来はなかったから・・・・・・」

「そう、だな・・・」
「亮なら、きっとできるよ・・・・・・」

優しく微笑む薫につられて、亮もまた少し笑った。

例え虚構であっても、構わない。
一時でも、心の安寧が訪れるなら、幸せだと笑ってくれるなら。
・・・生きていて良かったと思ってくれるのなら。

不条理だらけのこの世界に、幸せをの意義を、生きている意味を教えてくれた『彼』に、亮はそう願った。


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